【対談】モビリティジャーナリスト・楠田悦子氏が語る、国内・海外における「鉄道とモビリティ」について

この度、モビリティジャーナリスト・楠田悦子さんとの対談が実現しました!
現在、MaaS(Mobility as a service「サービスとしての移動」の意義)もビジネスワードとしても急浮上していますが、それ以前より「心豊かな暮らしと社会のために 暮らしの視点から 移動と移動手段を考える」をテーマとして活動されています。そんな楠田さんと私、西上が国内のモビリティの現状、ジャーナリストとしての取材方法等も含めてお話しを伺ってきましたのでご紹介させていただきます。

取材日:2019/08/06

◼︎ 楠田 悦子(モビリティジャーナリスト)

心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化と環境について、分野横断的、多層的に国内外を比較しながら考える。
自動車新聞社のモビリティビジネス専門誌「LIGARE」初代編集長を経て、2013年に独立。
「東京モーターショー2013」スマートモビリティシティ2013編集デスク、名古屋市交通問題調査会、自転車の活用推進に向けた有識者会議委員。
自治体の地域交通や国の有識者会議委員、講演、プロジェクトのコーディネーター、プロモーションツールの作成など、活動は多岐に渡る。
※このプロフィールは、掲載時点のものです。

 

 

■ モビリティジャーナリストとしての、取材時における心得とは…

(西上)
今回の対談は、7月に石川・金沢にて開催されたモビリティマネジメント会議でご挨拶をきっかけに実現させていただきました。その際に楠田さんは海外取材の機会が多いと伺いましたが、モビリティジャーナリストとしての取材時において、特に心がけていることはありますか?

(楠田)
海外から日本を見た時に「今の日本の現状がどのような見え方をしているか」を基準に行っています。このような目線で見た場合に、国内におけるモビリティの課題感が浮き彫りになっていくことが多くあります。

(西上)
おっしゃる通りですね。特に楠田さんに初めてお会いした際にも、その部分を重点的に語っていただけたことが印象深かったです。私もアジア諸国での海外経験がありますが、客観的に日本を見ることで、今まで気づかなかった点や改善点が浮かび上がってきますね。

 

■ 昨今の国内におけるモビリティの現状は?

(西上)
最近のトレンドとして「MaaS」を始めとするホットワードがようやく国内にも浸透してきた気がします。そのような昨今の日本においてのモビリティについて、楠田さん自身はどのようなお考えをお持ちですか?

(楠田)
現在、日本のモビリティは事業者任せな状況になっており、各自治体等における海外の最新情報収集に対しての取り組みは後手に回っている印象を受けます。まだまだ海外における最新のモビリティ事情を把握していない方々が多いので、国内にももっと良い仕組みを取り入れる必要があると考えています。

元々、日本のモビリティというのは国内だけでも発展を遂げてある程度完結してしまっていますが、今後は日本の労働人口減少とともに縮小することが考えられます。それにもかかわらず、先述のような日本国内の現状に対しては一抹の危機感を感じています。日本側から能動的にもっと海外の良い事例を仕入れるという意識も必要であるし、もしそれ自体が難しいということであれば、私自身がその窓口のような役割になりたいとも考えています。

 

■ アジア各国におけるモビリティのトレンドは

夜間でも多くの人のバス利用で賑わう香港・銅鑼湾

(西上)
今年3月に香港で開催された「Asia Pacific Rail2019」という事業戦略に重点を置いた会議に参加しましたが、各鉄道事業者・関係事業者もホットなキーワードであるMaaSやスマートシティをとりあげていました。私個人としては中国雄安地区の国家をあげたスマートシティ戦略や韓国のスマートステーションの動きに大変注目しています。グレーターチャイナ(香港・台湾等)地区の動きももちろんそうです。

(楠田)
以前取材を行った台湾においては、日本より先駆けてMaaS の検討が行われおり、すでにサービスを開始していました。交通関係においてはオープンデータの推進などで ICT 活用が日本よりも進んでいる部分があり、公共交通の関係者の間で注目が徐々に高まっています。

例えば高雄については、市内の移動手段は鉄道、地下鉄、バス、LRT、自転車シェア、タクシーなどの公共交通は交通系 ICカード iPass(アイパス)で決済を行っています。政策として、iPassを利用する市民については交通料金を無料にするという社会実験を期間的(2017年12月から2018年2月の3か月間)行うことで、市民に公共交通を利用することを促しました。結果として公共交通利用者の増加しています。このような台湾・高雄のケースは、日本の国内事例として考えてもよいかもしれません。

(西上)
私は鉄道の観点から、スマートステーションの一例として、香港で2018年にオープンした高速鉄道の西九龍(West Kowloon)駅を取り上げます。香港側から中国へ出国する際は、チケットを購入した後にエレベーターで出発ゲートへ直通します。この際は駅の構造的に出発の乗客が到着のフロアへ行き来出来ないようになっており、国際空港と似ています。また、ユニークなポイントは「駅内に国境がある」ということで、出国手配をした後はその先に「国境」があり、入管手続としてはそれを越えたら香港→中国へ移ったと見なされるのです。

西九龍駅内の「駅内に国境がある」構造。

 

■ モビリティジャーナリストが考える、「鉄道とモビリティ」とは?

(西上)
私が代表をつとめるIY Railroad Consultingは、鉄道を基軸としたと地域モビリティの確立を目指しており、地方創生プロジェクトを立ち上げております。楠田さん自身は鉄道とモビリティについてはどのようにお考えですか?

(楠田)
海外では鉄道を中心としたモビリティマネジメントが話題の中心となることもあります。特にヨーロッパ諸国においては鉄道設備がしっかり整っており、今のMaaSというキーワードが流行る以前から、粛々とIT化・スマート化が行われている現状があります。また、イギリスやドイツではゾーン制の運賃体系がとられていたり、フィンランド・ヘルシンキでは交通局が他会社へ委託して運行を行っていることなど今後日本国内でMaaSを行う上で知っておいた方が良い国は多くあります。

フィンランド・ヘルシンキ市内

一方、国内においては都市の規模によって鉄道が使えない場所も多くあるため、
元々鉄道がない地域ではバス等の公共交通機関に代わってくることで、その役割を果たしていくかとも思います。

※ゾーン制とは…
都市内をゾーンに区分けして、通過したゾーンの数で運賃を決定する。
鉄道や地下鉄など運行事業体が別会社であっても、運賃の体系自体が共通化されているので、別会社に乗り換えても初乗り運賃を2回払う必要がない。

 

■ 今後の活動について

(西上)
今後はどのようなエリアに取材予定がありますか?

(楠田)
今後も継続して海外取材を進めていく予定をしております。直近では、10月にシンガポールで開催されるITS(ITS世界会議シンガポール2019)に参加しますので、その前後にマレーシアやインドネシアなどの近隣諸国を訪れ、各地で取材を進める予定です。

(西上)
確かに、なまじ基盤が整っている日本よりも、今導入真っ只中のアジア諸国ほうが取り入れるスピード感や仕組みについては逆に参考になるかもしれませんね。私も海外向けのネットワークを活かして相乗効果を図っていきたいと思います。今後はモビリティジャーナリスト×鉄道アナリストとして、様々な分野でコラボレーションを図っていきたいです!

 

楠田さん、グローバルなモビリティマネジメントでの切り口のお話をありがとうございました。
ご本人様のご活動については、HPにてこちらご参照ください。

また、今後も「IY interview」では各界の著名人やプロフェッショナルの方々にインタビュー形式で行ってまいります。
第2弾もお楽しみに!