「運転士」が居なくなる日… AI時代に向けた、痛みを伴う改革の代償

今回のニュースは、鉄道関係者にとって中々インパクトが強かった。
 
 JR東日本、運転士と車掌の名称廃止へ
 JR東日本が「運転士」と「車掌」の名称を廃止し、「乗務係」や「乗務指導係」などに変更する方針を固めたことが4日、同社関係者への取材で分かった。2020年4月に実施する考え。これまで車掌や運転士への登用に必要だった社内の試験もやめて、通常の人事異動で配置する。人手不足への対応のため、JR発足以来初めての抜本改革で、柔軟な人員配置を実現する狙い。3月末、社員に提示したが反発も出ている。新制度で社内試験がなくなると、駅員を経て、「乗務係」や「乗務指導係」「乗務主任」などに配置され、従来の車掌や運転士業務を担う。
(出典:毎日新聞2019年4月5日)

 この変更には「柔軟な人員配置」の先には、言わずもがな約10年後には到来するであろう、AI時代に向けた自動運転化を視野に入れた改革であると考えられる。

「将来なりたい職業」の定番、が消えてしまう?

 2018年度「大人になったらなりたいもの」ランキング(第一生命)の発表では小学生を対象としたアンケートであるが、鉄道運転士はトップ10にランクインしている。
その年によって多少の変動はあるものの、運転士は安定的にランクインしており、子どもにとっても憧れの職業であると言える。
そのポジションが、今回のJR東の名称廃止に伴い、業務はなくならないものの呼称を無くしてしまうことは、多くの子どもの夢も奪いかねないのではないか。
 また車掌にとっても、社内登用試験を受けて憧れの「運転士」になるということが一つの大きな目標でもあり、そのポジションが無くなることは社内士気に大きな影響を与える原因になる可能性もある。もちろんその辺りの影響も計算に入れた上での今回の変更であるかとは思うが、どのように組織の体制を保っていくか、それを含めて同社がどんな思惑があるのかも大変興味深い。

トライ・アンド・エラーの許されない中で

 AI・人工知能はトライ・アンド・エラーを繰り返すことでその精度が向上し、やがて100パーセントのパフォーマンスを打ち出すことができる。
一方で人命に関わる事故が発生した場合、一刻を争う判断がある中でエラーなく時代までたどり着けるのが理想であるが、それまでの長い過程の中で多くのミス、特に人命に関わることが伴わなければならないのであれば、どのように超えられるかも課題となる。

 JR福知山線脱線事故は10年以上経過しているが、多くの犠牲者を出してしまった事故であるからこと今でも大きな影響を与えている。
AIが起こしたミスの尻拭いは監督している管理者がすることとなるのであれば、組織体制への影響も大きい。
人工知能はミスの可能性を減らすのも得意とも言われるが、数回のミスが許されるという職種でなはないからこそ、可能性がゼロと言えない限り慎重な導入計画と人間とのバランスを考えなければならない。

 また、ご存知の通り日本の鉄道依存度は大変高く、もちろん世界トップクラスの乗降者数を誇る駅を幾つも擁する都心部では多くの人が行き来し、特に通勤ラッシュ時には容量オーバーしている飽和状態。そんな混雑時でも大幅な遅れが無くスムーズな乗降というのは、毎日の通勤で利用しているお客さん達、いわゆる「訓練された乗客」の協力お陰で成り立っている。
 AIが予測出来ない遅れが一度発生した場合、マンパワーに頼っていない運転整理で毎日の利用客が不満を溜めず混乱を避けたサービスが即時に提供できるかが、一つの課題になりそうだ。 

 ただ、そのような懸念をも乗り越える利便性・効果があるからこそ導入を検討しているわけである。「変革は痛みを伴う」と良く言ったもので、まさに今が過渡期とも言える。

今後、鉄道に優秀な人財が集まらないのか?

 上記のとおり、運転士という職種は、近い未来に訪れるであろうAI時代には、業務を代替してロボットが担っている可能性は大変高い職種であるとも言われる。
一方、不安視されるのは優秀な人財が育つ土壌が出来ない可能性があることだ。鉄道会社は毎年人気の就職先としても知られており、自ずと入社希望者が高い志をもって入社を希望する。
 便宜上、JRを優良な会社と仮定するのであれば、それは優秀な人財が有ってこそ優良な会社が育ってきたわけである。それは決して大卒の事務系社員だけで作り上げられるものではなく、優秀な運転士を含む技術者の姿が常にある。

 もし20年後のAI体制のために「運転士」という呼称を無くすことが、現時点から入社を考える優秀な人材を減らしてしまうような形になっていれば、それはJR東という一会社のみへの影響だけではなく、ひいては鉄道業界将来全体へ多大なインパクトを与えてしまいかねないだろう。

「プロフェッショナル」が居なくなる日に

 「運転士」だけではなく、「パイロット」「税理士」「行政書士」など名だたる職業が無くなってしまうかもしれないという現在では、「プロフェッショナル」という呼び名が名ばかりのものになってしまうことが一番恐るべきことである。
 一人ひとりが夢を実現するため、知識の習熟や国家資格取得のモチベーションを持っていると思うが、裏側にはその職業がプロフェッショナルであることに強い因果があるといえる。これらの優秀な人材が、AIに代替出来ないプロフェッショナルを求め他業界に流れれば、長期的な業界衰退も考えられる。

 頭でっかちな政策は大変危険であるので、今後は各所にバランスを保ちながら慎重な判断が求められることになる。